【元カノと元カレ達のフジロック】ビター・スウィート・チリ・ペッパーズ
“フジロックは時として、思わぬところで人生の交差点となる”
『元カレ×元カレ×元カノ×……=???』
こんな方程式がフジロックで突如起きてしまったら、
あなたはどう振る舞うだろうか。
2016年、
いつもの仲間とフジロックに来ていた。
友人の一人が、
『A子ちゃんがFacebookで“フジロック”に行くって言ってたよ』
という情報を教えてきた。
A子ちゃんと私とこの友人(B男)は、3人共中学の同級生である。
そしてその3年間の中で、私とB男はそれぞれ異なる時期にA子ちゃんと付き合っていた。
私とB男の間には“元カレ”同士のしがらみなど無く、むしろ大人になってからも時々思い出したかのようにA子ちゃんの思い出話を語り、その度に『久々に会いたいねえー。』と意見を一致させてきた。
そのA子ちゃんがフジロックに来てるというのだ。
“会わない”という選択肢は無かった。
B男はFacebookでメッセージを送り、
私たちは2日目の昼に会うことになった。
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時は15年さかのぼり、私が中学3年生の時。
はじめてA子ちゃんと同じクラスになった。
ある日、私がA子ちゃんに目をやると、
彼女は何やらノートに英語と日本語を書いていた。
それは何かと聞くと、
レッド・ホット・チリ・ペッパーズの“Otherside”という曲の歌詞と翻訳だった。
私はおったまげた。
「俺今ちょうどそのCDツタヤで借りてるんだけど!!」
『ほんと?!』
「ちょーカッコいいよね!!」
この町の中学生でレッチリを聞いている人がいるとは思わなかった。
彼女は友人に勧められて、
私は雑誌“CDでーた”での記事で気になって、
たまたま同じタイミングで『カリフォルニケイション』を聞いていたのだ。
それをきっかけに話すようになり、
レッチリのこともさらに好きになり、
卒業式の日に付き合うことになった。
高校はバラバラで、思い出せないほどの理由で彼女とはすぐに別れてしまったが、
A子ちゃんのことは、自分の中での“青春”として強く残っていた。
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そしてフジロック2日目。
ピラミッド・ガーデンで私たちは久しぶりに再会した。
A子ちゃんは私たちの思い出話に登場するままの“素敵な女性”になっていた。
一緒にいる男性は彼氏だろうか?
挨拶もそこそこに、その男性は見たいライブが始まるからと、場を離れて行った。
『今の人彼氏?』
私もB男も別にA子ちゃんと再会して、取り合いをする気などさらさらない。
美しい思い出はあるが未練はない。
A子ちゃんが彼氏とフジロックに来てても驚きはしないし、むしろ彼女が幸せなことは喜ぶべきことだ。
A子『いや、違うよー。知り合い。』
B男『3日間いるんでしょ?宿とったの?』
A子『宿は取れなかったから、さっきの人と3日間テントでキャンプだよー。』
いや、A子ちゃんっ!!!
別にいいのだ、A子ちゃんだって大人だし、知り合いの男性とフジロックでキャンプしても全然いいのだ!
でも、A子ちゃんっ!!!
私とB男はA子ちゃんとの会話中、ずっと心の中で繰り返しつっこんでいた。
しばらく話して、みんなで写真を撮って、
A子ちゃんとはバイバイした。
私「…なんか、男女が3日間テントでって、エロいシチュエーションだね。」
B男『そっ、そうだね…。』
………
私「でも、やっぱりいい子だったね。」
B男『うん、変わってなかった。』
そう、A子ちゃんは今もいい子だった!
これでいいのだ。
久しぶりに会って元気な姿を見れて単純に嬉しかったし。
それに男女が3日間テントでキャンプしたって、別に必ずしも“そーゆーこと”になるわけじゃないからね。
だって、お互い汚いし汗臭いしさ!
次の日、
フジロック最終日。
グリーンステージのヘッドライナーは
レッチリだ。
フィールドには凄い数の人が集まっている。
このどこかにA子ちゃんもいるのだろう。
考えてみると2016年は感慨深いフジロックだった。
レッチリを好きになるきっかけを作ってくれたA子ちゃん。
レッチリを好きになってフジロックに出会えた私。(初参加がレッチリがヘッドライナーを飾った2006年)
そして今15年の歳月を経て、
同じステージのレッチリを見ることになるのだ。
付き合った当時は中学を卒業したばかりで金もなく、ライブなんて行けなかった。
あの日の2人は、まさか大人になってからレッチリの同じステージを見ることになるなんて思いもしなかっただろう。
そして開演間近。
さっきまで別行動をしていたB男が合流した。
B男『俺、夕方たまたまA子ちゃんと会ったよ!』
私「おー!まじか。レッチリ見るのかな?」
B男『うん!見るって!』
B男『あとね、
首にキスマーク付いてた!!』
いや、A子ちゃんっ!!!
………
レッチリのライブが始まった。
大好きなギタリストのジョンが抜けてからは初めて見るライブだった。
私はジョンのコーラスパートが大好きだった。
しかし今は別のギタリストがいる。
レッチリは別れを繰り返し、前に進んできたバンドだ。
私たちも別れを繰り返し、人生を前に進めている。
あの頃の2人ではないし、
あの頃のレッチリではないけれど。
共にいろんな経験を時間と共に積み上げながら、この苗場で再会したのだ。
これでいいのだ。
私はステージにいないジョンの代わりに、
彼のコーラスパートを大声で歌った。
中学3年生の自分のために。