【フジロック×フリーハグ】

【フリーハグ】

街頭で見知らぬ人々とハグ (抱擁) をして、素晴らしい何か（愛・平和・温もりなど）を生み出すために行われる活動。特定の団体などは存在せず、個々で自由に行われている。又、その目的も様々である。

　　　　　　　　　　　（Wikipediaより）

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2009年のフジロック。

グリーンステージからホワイトステージへ向かう路の途中に、【FREE HUGS】の看板を持った一人の女の子が立っていた。

当時、日本でもフリーハグは話題になっていたが、実際にやっている人を見るのはそれが初めてだった。

「おおー、ほんとにいるんだー。」

「ちょっと一回やってきなよ。」

一緒にいた友達の一人を彼女の元へ向かわせた。

少し距離を取り見守る我々。

「 ……………。　……。」

なにやら言葉を交わしているが内容は聞き取れない。

「 ………。　……。」

『ガシィッ！』

「！！！」

「うぉぉおー！！」

「ハグだ！本当にハグした！」

そりゃフリーハグなんだからハグするのは当たり前なのだが。

ハグする文化で育たなかった私たちには結構衝撃的な絵面だった。

だだっ広い場所で、

たった一人、

酔っ払いもいる中、

スタンガンも持たず無防備な格好で、

両手広げて行き交う他人とひたすらハグする。

しかも金も取らずに。

いや、むしろ高いチケット代を払ってだ。

では、彼女は何のためにライブも見ずにそのような行為をしてるのだろう。

ハグした友達に、「さっきハグする前に何て話してたの？」と、聞いてみた。

「あの子はねー、『私とハグして幸せになってください。』って言ったんだよぉ。」

「？？？。　で、幸せになれたの？」

「もちろん！人とのふれあいは素晴らしいね。彼女の勇気ある行動に感動したよ！」

もっともらしい事をニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべながら言っていた。

それから、少し彼女を観察していたのだが、その後も数人と短い言葉を交わしてはハグしてハグしてを繰り返していた。

そしてそのどれもが、見た限り男性だった。

気がつくと、友達は２週目のハグを楽しんでいた。

ーーしかし『私とハグして幸せになってください。』とは、なかなか凄い発想だ。

肝が座っているというか、よほどの自信がなければ出来ない発言である。

しかし、彼女は自分が女性だからとか、容姿の自信がどうとか関係なく、『人は人とハグすることで幸せになれる』と本気で信じていたのだろう。

そのくらいの純粋な気持ちでなければ出来ない行為だ。

だが少なくとも、２週目のハグを行った友達と彼女の間には、このような【ズレ】があったはずだ。

ハグの子

・目的→人を幸せにしたい

・結果→みんな喜んでくれた。私も幸せ！

友達

・目的（建前）→彼女の行動に賛同！

　　　（本音）→女の子とハグしたい！

・結果（建前）→人とのふれあいに感動！

　　　（本音）→女の子とハグできて幸せ！

結果だけみると、双方『幸せ』なのだが、

なんか結果までの過程に『歪み』がある。

女優さんが『芸術のためなら脱ぎます！』とヌードや濡れ場を披露しても、

結局多くの男はその女優魂を汲み取ることなく、ただ鼻の下を伸ばし喜ぶのに似ている。

モヤモヤした私は、この出来事を

【強烈な自己満】が【スケベという受け皿】によって互いに満たされた

と、ひねくれた解釈で落ち着かせることとした。

そしてそれ以降、私はフリーハグという行為を卑下するようになった。

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時は経ち2019年8月。

Twitterで、ある動画を見た。

“韓国の反日本政府デモで、フリーハグを求めた日本人に反響「彼らは日本人を嫌いなわけじゃない」”

それは、韓国の反日デモに日本人男性がフリーハグをしに行くという映像だった。

私は日本と韓国の関係にそこまで詳しくないので、それをどうこう言うつもりはない。

ただ、その動画の中で【フリーハグ】をする青年を見た時に、

国と国ではなく、人と人がふれあっている。

と、素直に感じた。

その時、

10年前のフジロックで感じたフリーハグに対する【歪み】が音を立てて崩れていった。

【歪み】の正体は自分にあったのだ。

スケベ心ではなく、人は人とふれあうことで“何か”を共鳴するのだと。

あの時ハグしに行った友達は、

建前でなく本音で彼女の行為に“感動”したのだと。

その時、理解した。

動画を見終わると、すぐにその友達に電話をかけた。

“あの時はお前の言ってる事が偽善に思えた。　

 すまん！”

それだけを伝えたくて。

（トゥルルル……）

（ガチャ）

「もしもし、俺だけど。」

『ああ、久しぶりー。』

「……ひとつ、ずっと勘違いしてた事があって。前にフジロックでフリーハグしたこと覚えてる？」

『ん？　ああ、うんうん！ 覚えてるよ！』

「あの時、実はお前のこと…」

『おっぱいが当たって嬉しかったなぁー！』

　……

「偽善者だと思ってたよ！！」

（ツー、ツー、ツー…）

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【フリーハグ】

街頭で見知らぬ人々とハグ (抱擁) をして、素晴らしい何か（愛・平和・温もりなど）を生み出すために行われる活動。

　　　　　　　　　　　（Wikipediaより）

しかし稀に、ハグ（異性との抱擁）することで愛と平和よりも【おっぱいの温もり】だけが残る事もある。

　　　　　　　　　　　　　　　　（追記）