【場内1駐車場】野暮な取り方と粋な奪い方
『場内1を制す者はフジロックを制す』
これはフジロッカーにとって一つの真理だ。
「ヤフオクで1万出してでも場内1を取れ」
「嫁を質に入れてでも場内1を取れ」
特にキャンプサイト利用者は場内1を取れるかどうかで、その後の3日間が決まる。
そして、更に場内1の中でもキャンプサイトにより近い場所を確保する事が、苗場での最初の戦いなのである。
その厳しいに戦いに勝った者は、キャンプサイトと会場までの間に中継基地を設けることが出来る。
これが大変便利なのだ。
ちょっと仮眠したい時は、テントまで行かずとも車で休めるし、
上着を車に置いておけば、夕方肌寒くなった時に傾斜を登らなくても取りに行ける。
やっぱり駐車場は最低限『場内1』で、
あわよくば更にキャンプサイトに近い場所だ。
幸いにもフジロックに数年通う内に、そのノウハウを覚えた私達は、その年のフジでも、どうにかその場所を押さえる事が出来た。
しかしやはり3日間いると、車で移動せざるを得ない時がある。
『本陣』の風呂に浸かりたかったのだ。
当時、まだ若者だった私達は、苦労の果てに手にした『場内1の中の場内1』をどうしても手放したくなかった。
故に、自分らの車を出した後、そこにコールマンの椅子を置いて、言わば【場所取り】をしてしまったのだ。
今考えると実に野暮ったい行為だ。
しかし、フジにはそんな野暮ったい若僧を正しく導いてくれる先輩方がいるのだ。
『本陣』から戻り、先程の駐車場へ戻ると、
「おい!空いてねーぞ!」
別の車が停まっている。
コールマンの椅子も無い。
さらに近くまで行くと、私達の駐車場を奪った車のわきに、コールマンの椅子が折りたたんで横たわっている。
「チキショーめ!コソ泥めが!」
友人が怒りを露わに椅子を拾い上げると、
ドリンクホルダーから千円札がポロっと落ちた。
「 ……… 。」
「駐車場代ってことだな。」
あの千円札には、叱咤、激励、作法、教養と、様々な意味が込められていたのだ。
勉強代だとしたら、お釣りを出さなきゃいけないくらいだ。
こうして、自分たちの野暮ったい行為に反省し、二度と場所取りはしないと決めたのだった。
粋な方法で気付かせてくれた、あの日の先輩フジロッカー、
ありがとう。